これは、忘れていた「本当のあなたに出会うため」の
目覚めの冒険物語。

気分が悪い理由が、わからない午後

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気分がよくない。
それは、はっきり分かっている。

宇宙の法則のことも、呼吸のことも、意識の向け方も、
感情は敵じゃないということも、学んできた。

整える方法も、切り替え方も、
頭の中には情報が揃っている。

だから、切り替える方法なんていくらでも知ってる。

それなのに…

このところ、気分が良くないのだ。
だからカフェに来てみた。
でも、カフェに来ても気分は変わらない。

コーヒーの香りも、
窓から差し込む午後の光も、
「落ち着けるはずのもの」は全部そろっているのに、
胸の奥に、ザラザラとしたものがある。


正解を選び続けてきた

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いつも、どちらが正解かを丁寧に選んできた。

気分が落ちたら、整える。
視点を上げて、今ここに意識を戻す。
最近は、背骨や丹田も意識している。

そうやって、
「正しいほう」を選び続けてきた。

だから今も、
間違ってはいないはずだ。
気分を整えるためにカフェに来た。
ちゃんとできている。

……それなのに。
なぜ…?気分が上がらないのか…


テーブルの上の、小さな扉

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わたしはカップを置いて、
テーブルの上に視線を落とした。

そのとき、
さっきまで何もなかったはずの場所に、
スマホとほぼ同じくらいの大きさの扉がある。

古びているのに、埃はなくて、
キラキラと光っていて、妙にきれいだった。

一度、瞬きをする。
もう一度、目をこする。

……消えない。

心臓が跳ねるほど驚くことはなかった。
怖さもない。
ただ、
「ああ、とうとう見えるようになってしまったんだな」
そんな感覚だけがあった。

周囲を見回す。
隣の席の人はスマホを見ているし、
店員さんはカウンターでカップを磨いている。

誰も、この扉に気づいていないようだ。

頭の奥で聞こえた声

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そのとき、
頭の奥で声がした。

「おい、お主」

思わず背筋が伸びる。声に出したら、完全に独り言だ。
わたしは口を動かさず、心の中で返す。

……なに?
あなた誰?

「そうそう、そのくらいでええ。
大きな声で話すと、まわりが気になるじゃろ」

……だれ?わたしのこと、気遣ってくれているんだ…。
こんな非現実的な状況なのに、妙に冷静な自分がいる。

テーブルの上の扉が、
きい、とわずかに音を立てて開く。

白く長い影が、
扉の向こうからにじみ出る。

りゅうちゃんの言葉

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「わしは龍神じゃ。気軽に、りゅうちゃんと呼んでおくれ」

……やっぱり。
驚くより先に、どこかで知っていたような妙な納得があった。
りゅうちゃんは、わたしをまっすぐ見た。

「今、お主はずっと気分が悪い。違うかのう?」
図星すぎて、言葉が出ない。小さく、うなずいた。

「その理由、知りたくないか」

「……知りたい。けど、今ここで?」
「わしは、そう簡単には出てこん。」

胸の奥が、静かにざわつく。
わたしは息をひとつ吸って、覚悟を決めた。

「……じゃあ聞く。わたしが気分が悪い理由って、なに?」

気分が悪い理由

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「それはのう…」
りゅうちゃんの声が、少しだけトーンが下がる。
「お主が、“良い気分の自分”だけを、正解にしてきたからじゃ」

胸の奥が、きゅっと縮む。

「笑顔のときの自分。整っている自分。それだけを“正しい”としてきた」

わたしは何も言えない。ただ、息を止めて聞いている。

「じゃがのう。泣きたいときもある。惨めなときもある。悲しいときも、怒りたいときも、嫉妬するときもあるじゃろ」

言葉が、刺さる。

「そういう気分が悪いときの自分を、“自分じゃない”として、外に追い出しておる。お主の考えは、わしにはスケスケじゃ。」

自分を追い出していた

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……これも図星だった。
明るく、ポジティブな自分だけを正解にしていた。
迷ったときは、どちらを選んだら正解か、いつも思考で考えていた。
気分が悪い自分は、排除したかった…

「気分が悪くなった瞬間、お主はこう思うじゃろ。
“これは本当の私じゃない”“早く元に戻らねば”とな」

……思い当たる。

「それはのう、ずっと自分を否定しているのと同じことじゃ」
「え?ずっと自分を否定しているのと一緒になるの?」
「そうじゃ。そんなの気分悪いに決まってるじゃろ。」

わたしはずっと“良い状態”でいようとしてきた。
そのほうが、うまくいくと信じていたからだ。

わたしは、カフェに突然現れた龍神・りゅうちゃんの話を聞いていた。
マグカップに視線を落とし、静かに耳を澄ませる。

「でのう。ネガティブな自分を否定して、明るく、ポジティブな自分だけを正解にしておると、起こることがあるんじゃよ」

「え? なに?」

りゅうちゃんは、間を置いて続けた。

「場所を変えても、行動を変えても、思考を整えようと頑張っても、甘いものを食べても、気分が悪いままなんじゃ。」

「う……」

カフェの音が戻ってくる。
スプーンの触れる音。人の声。午後一時の、現実。

テーブルの上に、女性が現れる

テーブルの上に、きらりと小さな光が瞬いた。
なんと、小さな女性が立っているではないか。

紫色のワンピースに黒髪。毛先だけが、ほのかにピンクに染まっている。身体の輪郭がやわらかく光をまとい、まるで妖精のようだった。

「はじめまして♡」
小さいのに、ちゃんと声が届く。
「ひみつのマインドラボのミーサです」

そう言うと、ミーサはテーブルの上をちょこちょこと歩き始めた。
扉のノブに触れてみたり、りゅうちゃんの尻尾をよけたり、マグカップまで行って中を覗き込む。

「……うん。今日のカフェラテ、ちょっと苦めだね」

こんな状況なのに、思わず笑ってしまう。

「わたし案内人なの。それとね、地球には、もう一人のわたしがいるの」
その言い方が妙に現実的で、ますますおかしかった。


地球のミーサの体験談

「地球にいるもう一人のわたしもね、あなたと同じだったのよ」
ミーサはテーブルに腰を下ろして、足をぶらぶらさせる。

「良い気分のとき。ポジティブなとき。軽いとき。笑顔のとき。
それだけを“正解の自分”にしてたの」

胸の奥が、静かに反応する。

「だからね、ネガティブな感情が出てくると、無意識に思ってたの。
“こんなこと感じちゃダメだ”って。」

ひと呼吸おいて、ミーサは続けた。

「特にね、宇宙の法則を学んでいたから、ネガティブな状態でいると、ネガティブなことが起きちゃうって信じてて……。気づいたら、ずっと自分の思考を見張ってたの」

わたしもだ…。
悲しい。惨め。嫉妬。八方塞がりな感じ。
叫びたくなる感じ。
出てくるたびに、こんなこと感じちゃいけない、ポジティブに考えなきゃってしていた。

「するとね。地球のわたしはどうなったと思う?」

目の前のミーサはくるっと立ち上がって、またテーブルの上を歩き出した。

「少しずつ、自分が何を感じているのか分からなくなってたの。本音も、やりたいことも、好きだったはずのものも……あれ?どこに行った?って感じがしてね」

その瞬間、ミーサはわたしのボールペンにつまずいて大きく転んだ。その姿が可笑しくて、胸の奥がじんわり熱くなった。

ノイーズの特徴

ミーサはこちらを見てにっこり笑っている。
りゅうちゃんが言葉を継いだ。
「こんなこと感じちゃいけないと頭の中で、自分を否定してくる声。それがノイーズじゃ」

ミーサは大きくうんうん、と頷いている。
「ノイーズ?」
「うん。ノイーズはね、排除されることが大嫌いなの。消そうとすればするほど、無視しようとすればするほど、どんどん大きくなる」

「ポジティブに考えよう無理にノイーズを消そうとすればするほど、ノイーズの存在感が増すんじゃ」

汗と同じ?

「少しだけ例えを言おうかのう…」
わたしは黙って頷いた。

「汗と同じじゃ」

「……あ、汗?」

りゅうちゃんは淡々と続ける。

「汗は、くさいとか汚い〜!とか言われることもある。じゃがのう、お主の体から出とる大事な働きじゃ。臭い汗が出たからといって、“これは私の汗じゃない”とは言わんじゃろ」

……言わない。

「気分が悪い感情も同じじゃ。不快なだけで、お主の一部。良い気分だけが本物で、悪い気分が偽物なんてことはない

りゅうちゃんの声が、優しく響く。

「悪い気分も良い気分も、ぜーんぶ、お主が生きとる証明じゃ🎵」

気づいた

わたしは、はじめて気づいた。ノイーズのことは、まだよく分からない。
でも、気分が悪いままの自分も、ここにいていいんだって、ほんのりそう思えた。

「そっか。気分が悪い自分も、居ていいんだね。それも、わたしなんだね」
胸の奥で、何かがゆっくり緩んでいった。

扉の前で

頭の中で、わたしを否定してくる声。
それがノイーズ。
でも、もしこのノイーズの仕組みがわかったら…
わたしは、気分が悪い自分と、毎日戦わなくて済むかもしれない。
同じところをぐるぐる回る毎日から、抜け出せるのかもしれない。

ミーサは扉の前に立ち、小さな手でそっとノブに触れた。

「この扉の向こうではね、“気分に振り回されないわたし”を取り戻す旅が始まるの」

りゅうちゃんが続けた。

「進むかどうかは、お主が決められるぞい。じゃがのう…
この扉は、“変わりたい者だけ”に開くんじゃ」

この扉に入る決断をしたら、わたしは小さくなるのか…?
それとも、カフェから消えてしまうのか。
そんな、どうでもいいことを考えていた。

ノイーズか…。
ノイーズのことを、もっと知りたいと思っている自分がいることに、わたしは気づいていた。