画像

ある日、現実世界の片隅に、ひっそりと現れた小さな扉。そこには「secret mind lab」と記されていた。
ギイ……と音を立てて開いたその先は、見慣れた日常とはまったく違う世界だった。

画像

そして、たどり着いた『ひみつのマインドラボの世界』
わたしが案内されたのは——ノイーズの部屋だった。

否定の正体に会いに行く

画像

「ノイーズの部屋に行くからね。あなたの中にある、自分を否定する声の正体がわかるから。」
ラボの案内人のミーサが言った。

わたしは導かれるように歩き出した。
進むごとに空気の密度がわずかに変わる。
静けさの中に、細い緊張が混じりはじめる。

やがて現れたのは、宇宙図書館と呼ばれる建物の隣にひっそりと佇む、小さな石造りの別館だった。

その中央に、重厚な扉がある。
黒鉄の取っ手には細かな傷が刻まれていた。

「多くの人はこの部屋を避けて通るんじゃ。なぜかわかるかのう?」
龍神りゅうちゃんが目を細めながら言った。

「ここには、まだ光が届いていない“自分の断片”がある。見たくなかった記憶、認めたくなかった感情、傷ついたままの出来事。自分で自分に貼ったラベルも、そのまま残っておる。」

わたしは足を止めた。
胸の奥が、わずかに重くなる。

決断のとき

画像

ミーサが静かに扉の表面をなぞった。
すると、指先から淡い金色の光がこぼれ落ち、鉄の傷跡が一瞬だけやわらかく光る。

「わたしも、この扉の前で立ち止まったことがある。
怖かったのよ。自分の未熟さや、格好悪いところに光を当てるのがいやだった。
だから、見ない、前向きに考える…そうやってやり過ごしていたの。」

冷たい風が頬をかすめた。
けれどその奥に、わずかなあたたかさも混じっていた。

「ノイーズを知る覚悟はできとるかのう?」

胸の奥が、どくんと鳴った。
怖い。けれどもう、同じ場所で立ち止まりたくない。
本当はずっと、変わりたかった。
強がることでもなく、恐れに飲み込まれない自分でいたい。

そして、わたしはわたしを全うしたい。

小さく息を吸い、こくんと頷いた。
ミーサがさらに扉に光を送ると
ゴウン……という鈍い音とともに、
重い扉がゆっくりと内側へひらいた。

湿った空気がゆるやかに流れ出す。
足もとには深紅の絨毯。
両脇には古びた本棚。
紙と鉄の匂いが混じりあう薄闇の廊下が、まっすぐ奥へ続いていた。

ノイーズとの出会い

画像

暗い廊下に足を踏み入れた。
一歩、二歩、三歩。 怖い。
その瞬間、どこからか声が響いた。

「失敗したらどうしよう」
「うまくやらなきゃ」
「嫌われたらどうしよう」
「愛してほしい」
「どうしてわたしばっかり」
「大嫌い。絶対に許さない」
「寂しいよ」
「何も持ってないし」
「お母さん、お父さんごめんね」

え?なに?…それは誰かの声ではなく、聞き覚えがあるわたしの声だった。

画像

「これはのう。お主の記憶が反響しているのじゃ。」
りゅうちゃんの声が静かに響く。

「お主が生まれる前、そして生まれてから……。 これまで起きたすべての出来事、やってしまったこと、そして『感じたくない』と胸に閉じ込めた想いじゃ。」
わたしはりゅうちゃんの言葉を聞き逃さないよう、じっと耳を傾けた。

「お主の中の、言いたかったのに言えなかった言葉。届かなかった気持ち。
後悔、罪悪感、惨めさ、悲しみ。流せなかった涙。
叫びたかった『助けて』という願い。
それだけではない。輪廻転生を繰り返した記憶。
お主の細胞に刻まれているご先祖様の記憶
そのすべてがこの『ノイーズの部屋』には保管されておるんじゃよ。」

わたしは引き返したくなった。
だけど、今までこうして逃げてきた。だから、今回は逃げないと決めている。

あれが、ノイーズ

画像

霧が揺れ、小さな存在が姿を現す。
くすんだ雲(くもり)のかたち。
下にはコンセントのプラグのような足。迷子の子どものような表情。「あれ……かわいい」わたしは拍子抜けしてしまった。もっと恐ろしいものを想像していたのに、そこにいたのは怯えた小さな存在だった。

画像

目を見つめた瞬間、胸の奥の閉ざしていた場所に何かが差し込む。
きゅっと震える感覚。
「あ……わたし自身だ」ノイーズは、置き去りにしてきた自分の一部だった。わたしが一歩近づくと、ノイーズはふわりと揺れ、輪郭をわずかに縮める。逃げるでもなく、ただこちらの様子を伺っているようにも見えた。

補足♡

  • ノイーズとは、自己否定の声を生み出す「記憶と情報の集合体」。

  • 過去の記憶(生まれる前も含め)や他人の言葉が積み重なり、無意識で思考や行動に影響している。

  • 感じる生きづらさや同じパターンの悩みは、ノイーズに気づくサイン。

  • 感情を抑えるのではなく理解することで、自己否定は少しずつやわらぐ。

  • ノイーズを否定せず理解することは、自己理解を深め、本来の自分を取り戻すきっかけになる。

  • 否定の声を客観視できると、反応ではなく「自分で選ぶ生き方」へと変わっていく。